桜の下で眠りたい君は

桜の下で眠りたい君は

桜の木の下には屍体が埋まっている

夕日に照らされた桜の木の下で、河野は鈴にそう言った。自分を不思議そうに見上げた鈴に微笑んで、補足を口にした。

そうでなければ、桜の花がああも見事に咲くわけがないじゃないかそういうことを書いた作家がいたんだ

そういう都市伝説なら、聞いたことがありますけど

あぁ。恐らくその始まりだろう

鈴の言葉に、河野が頷く。

だが、それがイメージさせる屍体は人間のものじゃないか?

違うんですか?

先に引用した作家によれば、別に何の屍であるかは限定しないようだよ。そう、例えば

それは馬のような。

それは犬のような。

それは、人のような。

屍体であれば何でもいいんだろう、なんて言い方は少し乱暴かな。でも、きっとそうなんだろう例えそれが僕や君であっても

風向きが、少不穏になってきたような気がする。鈴は覚えた肌寒さに両腕を抱きしめる。

君を殺したりしないよ

目を細めた河野が告げた。

そうだ、誰が殺すものか。僕はまだ君を殺した僕を殺して、出来たふたつの屍体に土をかける方法を見つけていないのに

ふたりで仲良く桜の下に埋まる、そんな方法があればなぁ男は残念そうに肩を落とした。そんな男の白い顔を見つめて、鈴は小さく口を開く。

今すぐにじゃなくて、殺す殺さないなんて物騒なことも求めなくて良いなら

何を考えているか掴ませない、河野の無感情な瞳が鈴を見ている。その視線に晒されながら、まだ空の自分の腹部に手を当てた。

私があなたの子どもを産むよ。それで、その子が大きくなったらさ、年を取って死んだ私とあなたを一緒のお墓に入れてくれるでしょう。私たちはそれまで、桜の木の下にお墓を買って待っていようよ

それでは、駄目なのか。女は訴える。短い沈黙の後に、男は首を振った。

君がそれを望むのなら、僕はこう言うべきだろうね

男は恋人の左手を取り、その薬指を撫でる。

優しい声が、彼女を呼んだ。

結婚しよう。側で同じ最期を迎えるために

待ち続けた言葉に、鈴は真剣な眼差しで応えた。

はい、勿論